「毎週しっかり走り込んでいるのに、最近タイムが全く伸びない…」
「フルマラソンの30km過ぎで、いつもガクッとペースが落ちてしまう…」
そんな悩みを抱えるランナーの皆さん、その停滞の原因は**「最大酸素摂取量(VO2max)」にあるかもしれません。VO2maxは、あなたの持久力を科学的に示す最も重要な指標の一つです。
私自身、記録が伸び悩んだ時期に根本から見直したのが、このVO2maxでした。
この記事では、小難しい理論は抜きにして、「なぜVO2maxが重要なのか」から、科学的な知見に基づき、あなたのVO2maxを効率的に向上させ、自己ベスト更新へと導くための具体的なトレーニング方法、そして見落としがちな食事のポイントまで、網羅的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたのランニングが次のステージへ進むための、明確な道筋が見えているはずです。

目次
そもそも最大酸素摂取量(VO2max)とは?ランナーにとっての重要性
まず、VO2maxとは何かを簡単におさらいしましょう。

専門的に言うと「体重1kgあたり、1分間に取り込むことができる酸素の最大量」のことですが、もっとシンプルに**「持久力のエンジン(心肺機能)の大きさ」**と考えてください。
車のエンジンが大きければ大きいほどパワフルなスピードが出るように、人間の体も一度に多くの酸素を取り込み、エネルギーとして使えるほど、より速いペースを長く、楽に維持できるのです。
マラソンのような長距離走では、このエンジンの大きさがパフォーマンスに直結します。実際に、エリートランナーほどVO2maxの数値が高いという強い相関関係が多くの研究で示されています。あなたの記録が停滞しているのは、今の走り方に合ったエンジンの大きさが限界に達しているサインなのかもしれません。
【コラム】自分のVO2maxを知る簡単な方法
「じゃあ、自分のVO2maxはどうやって知るの?」と思いますよね。
専門機関で精密な測定もできますが、もっと手軽に知る方法があります。最近のGarmin(ガーミン)などのGPSウォッチをお持ちであれば、数回ランニングするだけで自動的に推定値を算出してくれます。
また、手動で測定する方法として「クーパーテスト(12分間走)」などもあります。まずは自分の現在地を把握することで、トレーニングの目標が明確になりますよ。
ほかにもトレーニングについて記事にしているので読んでさらにパワーアップしてください!
【最重要】VO2maxを向上させる5つの具体的トレーニング
ここからが本題です。あなたのVO2maxというエンジンを効率的に鍛え上げるための、具体的なトレーニングメニューを5つご紹介します。ただやみくもに走るのではなく、週に1〜2回、練習メニューに「目的」を持たせることが飛躍の鍵です。
1. インターバル走:最も効果的でパワフルな王道トレーニング
VO2max向上と聞いて、多くのランナーが真っ先に思い浮かべるのがこのインターバル走です。短時間の疾走と不完全な休息(ジョグなど)を繰り返すことで、心臓に高い負荷をかけ、心肺機能を根本から鍛え上げます。

- なぜ効くのか?(メカニズム):
心拍数が最大近くまで上がるような高強度の刺激を与えることで、心臓は一度に送り出せる血液の量(心拍出量)を増やそうと適応します。これがVO2max向上の最も直接的なアプローチです。 - 具体的なやり方(サブ4目標ランナーの例):
- メニュー: 1000m × 5本(ペース:キロ5分00秒前後)
- 間の休息: 400mのゆっくりとしたジョグでつなぐ(3分程度)
- ウォーミングアップとクールダウンを前後で必ず10〜15分行いましょう。
- ポイント:
主観的なきつさで言えば「かなりきつい」と感じるレベルです。5本すべてを同じペースで走り切れるギリギリのペース設定が重要です。やり過ぎは怪我のリスクを高めるため、まずは週1回から取り入れてみましょう。
2. 閾値(いきち)走(LT走):乳酸と上手に付き合うための賢い練習
インターバル走ほど追い込まないものの、VO2max向上に非常に効果的なのが閾値走(LT走)です。
- なぜ効くのか?(メカニズム):
運動強度を上げていくと、体内でエネルギーを作る際に「乳酸」という物質が急激に増え始めるポイントがあります。これがLT(Lactate Threshold)値です。このLT値を高めることで、きついと感じ始めるペースを引き上げることができ、結果としてVO2maxに至るまでの余力を生み出します。 - 具体的なやり方:
- メニュー: 20分間、ペースを維持して走る。
- ペース設定: 「ややきつい」と感じるものの、20分間は会話がギリギリできるかできないか、というペース。フルマラソンのレースペースより10〜15秒ほど速いペースが目安です。
- ポイント:
ペースを維持することが目的なので、突っ込みすぎないように注意しましょう。レース後半の粘りを養うのに最適なトレーニングです。
3. ヒル・トレーニング(坂道走):心肺と脚筋力を同時にいじめる一石二鳥トレ
平地でのスピード練習が苦手な方や、トレーニングに変化をつけたい方におすすめなのが坂道を使ったトレーニングです。

- なぜ効くのか?(メカニズム):
坂道を駆け上がるという行為は、平地よりも自然かつ安全に心拍数を追い込むことができます。同時に、お尻や太ももの裏側といったランニングに必要な筋肉(ランニングエコノミーに関わる筋群)を効率的に強化できる、まさに一石二鳥のトレーニングです。 - 具体的なやり方:
- メニュー: 150m〜200mほどの坂道を8〜9割程度の力で駆け上がる。これを8〜10本繰り返す。
- 間の休息: 下りはゆっくり歩くかジョグで戻り、呼吸を整える。
- ポイント:
無理にスピードを出すことより、良いフォームを維持してリズミカルに駆け上がることを意識しましょう。
4. レペティション走:キレのあるスピードとフォームを磨く
インターバル走と混同されがちですが、目的が少し異なります。インターバルが「心肺機能の追い込み」なら、レペティションは「スピードの質を高める」トレーニングです。
- なぜ効くのか?(メカニズム):
休息をジョグではなく完全に歩いたり止まったりして十分にとることで、1本1本をより質の高い、レースペース以上のスピードで走ることができます。これにより、VO2maxに達する強度での動きに体を慣れさせ、スピード持久力を高めます。 - 具体的なやり方:
- メニュー: 400m × 8本(1000mのベストタイムに近いペース)
- 間の休息: 400mをゆっくり歩くなど、完全に呼吸が回復するまで休む(5分以上でもOK)
- ポイント:
1本ごとに集中し、リラックスした効率の良いフォームで走ることを意識しましょう。
5. LSD(ロング・スロー・ディスタンス):持久力の土台を築く地道な努力
ここまでの高強度トレーニングとは対照的に、ゆっくり長く走るLSDは、VO2max向上の「土台作り」として絶対に欠かせません。

- なぜ効くのか?(メカニズム):
VO2maxへの直接的な刺激は少ないですが、長時間体を動かし続けることで、全身の隅々に酸素を運ぶ毛細血管が発達します。これにより、筋肉が酸素を効率的に利用できる体質へと変化していきます。高強度トレーニングの効果を最大限に引き出すための、いわばインフラ整備です。 - 具体的なやり方:
- メニュー: 90分〜150分、隣の人と笑顔でおしゃべりできるくらいのゆっくりしたペースで走る。
- ペース設定: 気にしないことが重要です。時計を見ずに、景色を楽しみながら走りましょう。
- ポイント:
「こんなにゆっくりで意味があるの?」と不安になるかもしれませんが、この地道な練習が、フルマラソン後半での大失速を防ぎます。
トレーニング効果を最大化する3つの栄養・休養のポイント
素晴らしいトレーニングをしても、体が回復し、成長するための「材料」と「時間」がなければ効果は半減してしまいます。特に以下の3点は強く意識してください。

1.【ランナーは特に重要】「鉄分」を意識的に摂取しよう
- なぜ鉄分が最重要?
体内に酸素を運ぶのは、血液中のヘモグロビンという成分です。そして、そのヘモグロビンの主原料が「鉄分」。ランナーは発汗や着地の衝撃による赤血球の破壊で、一般の人より多くの鉄分を失いがちです。鉄分が不足する「ランナー貧血」の状態では、どんなに心肺機能を鍛えても、体に酸素を運べず、すぐに息切れしてしまいます。 - 何を食べるべき?
吸収率の高いヘム鉄を多く含む、レバー、赤身の肉、カツオやマグロの赤身などを積極的に摂りましょう。また、ほうれん草やひじきに含まれる非ヘム鉄は、ビタミンC(果物やピーマンなど)と一緒に摂ることで吸収率が格段にアップします。
2.「タンパク質」で壊れた体を修復・強化する
- なぜタンパク質が必要?
高強度のトレーニングで傷ついた(分解された)筋肉を修復し、以前より強くするため(超回復)に、タンパク質は必須の材料です。不足すると、疲労が抜けにくくなるだけでなく、怪我の原因にもなります。 - いつ摂るのがベスト?
トレーニング後30分以内は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、体が最も栄養を吸収しやすい状態です。このタイミングで、プロテインや牛乳、サラダチキンなどを補給するのが非常に効果的です。
3.「質の高い睡眠」こそが最強の回復ツール
- 超回復のメカニズム:
筋肉や心肺機能は、きついトレーニング中に強くなるのではありません。トレーニングでダメージを受けた後、しっかりと休養し、栄養を摂ることで、以前よりも少しだけ強い状態に回復します。この「超回復」を繰り返すことで、体は成長していくのです。 - 睡眠の質を高める工夫:
成長ホルモンが多く分泌される夜の睡眠時間を最低でも7時間は確保しましょう。また、就寝1時間前からはスマートフォンのブルーライトを避ける、ゆっくりお風呂に浸かるなど、リラックスできる環境を整えることが重要です。
【Q&A】VO2maxに関するよくある質問
- Q. VO2maxはどれくらいの期間で向上しますか?A. トレーニングの頻度や元々のレベルにもよりますが、週に1〜2回のポイント練習を継続すれば、一般的に4〜12週間で体に変化が現れ、数値としても改善が見られることが多いです。焦らず、しかし着実に継続することが何よりも大切です。
- Q. きついトレーニングが本当に苦手です。ジョギングだけではダメですか?A. もちろん、楽しくジョギングを続けるだけでもVO2maxは少しずつ向上し、健康維持には非常に効果的です。しかし、「記録を更新したい」「壁を破りたい」という目標がある場合は、体に少しだけ強い刺激を与える日を作ることが、効率的な成長への近道になります。まずは週1回、20分間の閾値走や、短い坂道ダッシュ3本から始めてみてはいかがでしょうか。
【まとめ】正しいアプローチで、あなたの記録はまだまだ伸びる
今回は、あなたのランニングパフォーマンスを劇的に向上させる可能性を秘めた「最大酸素摂取量(VO2max)」について、その高め方を徹底解説しました。
最後に、今日の重要なポイントを振り返りましょう。

- 効果的なトレーニング: インターバル走や閾値走など、目的に合わせた「きつい」と感じる練習を週に1〜2回取り入れる。
- 持久力の土台作り: LSDや日々のジョグで、酸素を効率よく運搬・利用できる体の基礎を作る。
- 栄養と休養の重要性: 特にランナーが不足しがちな鉄分の摂取を意識し、質の高い睡眠で体を回復させ、成長させる。
最大酸素摂取量の向上は、魔法のように一瞬で達成できるものではありません。しかし、今回ご紹介した科学的なアプローチを日々の練習に少しずつ取り入れることで、あなたの体は着実に変化していきます。そしてその変化は、必ずやレースの結果として現れるはずです。
まずは今週末の練習で、いつものジョギングコースにある短い坂を3本だけ、少し息を上げて走ってみませんか?その一本が、自己ベスト更新への大きな一歩になるはずです。
あなたの挑戦を心から応援しています!
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